「半沢直樹」にみる金融庁検査の虚実

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2013/09/20
「半沢直樹」にみる金融庁検査の虚実
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「やられたら倍返し」のTBSドラマ「半沢直樹」が佳境を迎えている。第6回以降の後半戦は銀行員半沢と金融庁の主任検査官・黒崎駿一との対決が最大の見物となっており、9月15日に放送された第9回では過去最高35.9%の視聴率をたたき出した(ビデオリサーチ社調べ)。9月22日にはいよいよ最終回を迎える。本ドラマは金融界にも多くの話題を提供した。ここでは敵役である金融庁検査の描き方について検証してみよう。

※本欄は、「週刊 金融財政事情」(9月23日発売)より転載しています。
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■金融界にも話題を提供
 銀行員を主人公にしたTBSドラマ「半沢直樹」が異例の大ヒットとなっている。これまでの高視聴率ドラマの必須要素である主題歌や恋愛という要素をあえて外し、主人公・半沢直樹(堺雅人)の決めゼリフ「やられたら倍返しだ」「クソ上司覚えてやがれ」がピッタリはまる舞台として銀行という場を選び、そのなかでの権力闘争をストーリーの基軸に据えた。これに対し、女性が共感を寄せているというのもおもしろいところで、女性の社会進出に伴うメンタリティの変化を反映している。
 ドラマの前半は、東京中央銀行大阪西支店融資課長の半沢が5億円の貸倒れの責任を支店長に転嫁されそうになるという話だ。融資の決裁権限は支店長にあるはずなので、融資課長がなぜ責任をとらされるのか不可解だが、金融界ではあまり気にされていない。むしろ、支店長の命を受けて、机をたたいて半沢をエキセントリックに攻め立てる人物(人事部の小木曽次長:緋田康人)をみて、「うちにもあんな人がいる」(大手行中堅行員)などと楽しんでいるようだ。「学生の銀行への就職希望が増えるのでは」(地銀関係者)、「大手行の貸し剥がしにあった半沢の父親の会社を救ったのが信用金庫だったことから、信金業界の評価が上がるのでは」との期待も聞こえる。
 ドラマとタイアップして銀行の内部をレポートするバラエティ番組(「ぴったんこカンカン」「中居正広の金スマ」、いずれもTBS)に一部の金融機関が協力し、金庫の仕組み、ATMの裏側などをみせたことから、全銀協の理事会では「防犯上の観点から望ましくない」という意見も出たようだ。ただ、これもドラマそのものが問題視されているわけではなく、ドラマをきっかけに営業フロアの現金出納システムやATMに装填している現金の額などを開示したことについての疑問にすぎない。

■職員の自宅で検査はない
 ドラマ後半戦では、5億円貸倒れ問題を切り抜けた半沢が本店営業第二部に栄転し、経営危機に陥った老舗の伊勢島ホテルの債務者区分を巡って金融庁の主任検査官・黒崎駿一(片岡愛之助)と対峙する。背後には、金融庁検査を利用して銀行とホテルを窮地に追い込み、それぞれのトップを追い落とそうとする、銀行の大和田常務(香川照之)とホテルの羽根専務(倍賞美津子)の陰謀があるという仕掛けだ。
 銀行の経営陣同士の内紛に金融庁検査が絡むというのはどこかで聞いたような話だが、ドラマでは金融庁が徹底して「悪者」として描かれており、その細部については首をひねるような場面も多い。これについても「毎回楽しんでみている。やられたら倍返ししろと職員に発破をかけている」と幹部は鷹揚だが、現場の職員の受け止め方はやはり少し異なるようだ。無粋を承知で、あえて問題点を指摘しておこう。
 半沢は、(大和田常務の指示で)伊勢島ホテルの株式運用による120億円の損失に関する内部告発が銀行内でもみ消され、200億円の新規融資が実行されたことを知り、その経緯を記した報告書を自宅に隠す。それをなぜか嗅ぎつけた黒崎主任検査官は部下の検査官を半沢の自宅に派遣し、半沢の了解をとって自宅を家捜しする。しかし、半沢の妻・花(上戸彩)の機転で資料は花の実家に送られていたため、家捜しは空振りに終わる。花の「夫は銀行員だから立場上いえないけど、一般市民のあたしはいうわよ」というセリフが、行き過ぎた公権力の行使に対する市民の反感を代弁する。
 しかし、銀行法は金融庁に対し銀行の建物内における検査権限を認めているものの、職員の自宅における検査までは認めていない。したがって、現実には金融庁の検査官が銀行の職員の自宅にまで出向くことはない。完全に任意であればどうかとも思われるが、検査官に確認したところ、「そもそも自宅にいくために職員に協力を求めることすらありえない」とのことだった。なお、国税庁や証券取引等監視委員会には「反面調査権」があり、検査対象業者の取引先に事実確認を求めることがあるが、金融庁の検査官にはそれも認められていない。たとえば、高齢者への投資商品の勧誘の適切性が問題となる場面でも、検査官が金融機関の顧客である高齢者に直接事情聴取にいくことはないという。

■「疎開資料」は検査忌避
 また、半沢は検査官の目から隠そうとする資料を「疎開資料」と呼び、当該資料を自宅から銀行内部の見取り図に記載のない機械室に移すなど、当然のように隠蔽を続けるが、これは検査忌避にあたる。これまで検査忌避を理由に行政処分が下されたおもなケースは、クレディ・スイス・ファィナンシャル・プロダクツ銀行東京支店(1999年7月29日、銀行免許取消し)、UFJ銀行(2004年6月18日)、日本振興銀行(10年5月27日)。いずれにおいても検査対応の責任者(CSFPは東京支店長、UFJは副頭取、振興銀は会長)は金融庁の告発を受けて逮捕・起訴され、有罪判決が下されており、検査忌避が犯罪であり、重大な結果を招くことは金融界に周知されている。かつては営業現場に女性職員が多い生命保険会社では資料を女子更衣室に隠すことが考えられるため、生命保険会社の検査では女性の検査官を連れていくこともあったというが、「最近そのような話は聞かない」(同庁関係者)という。
 ほかにも、りっぱに営業を続けている伊勢島ホテルの債務者区分が実質破綻先と認定されそうになっていることや、大手行の主任検査官は検査官のなかでも最もベテランの50代が務めるのが普通なのに原作では黒崎主任検査官が30代そこそことされているなど突っ込みどころは多いが、ここらへんでやめておこう。細部はともかく、ドラマには世間の金融検査に対する見方が反映されているともいえる。
「金融モニタリング基本方針」では、15年ぶり抜本的に金融検査のあり方を見直し、金融機関の健全性に影響がない限り自己査定の判断を尊重する、ささいなことで確認表を求めない、オフサイトでの情報収集を充実し、立入検査の検証項目を絞り込むなどの新機軸が打ち出された。金融庁検査のイメージも変わっていくのではないか。
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